梅ヶ枝餅 やす武

Umegaemochi Yasutake / 2021 /

平安時代に文学者・政治家として活躍した菅原道真公が、御祭神として祀られる太宰府天満宮。江戸時代には全国から旅人が盛んに訪れるようになり、梅ヶ枝餅はその「さいふまいり」の土産物として定着した。安武家は「六座」という商家の一族として永年にわたり、この地域経済の発展に寄与してきた。やす武の梅ヶ枝餅は素材や製法にこだわり、当時から現代に至るまで多くの参詣客に支持されている。
神域と俗界の結界である鳥居、御宮の方へなだらかな勾配で上る石畳、その奥に見える豊かな森。参道には清らかな空気が流れている。そのような参道に在る売場は、銅一文字葺きの深い庇で覆われ、陽射しや雨から参詣客を守りながら商いが展開される。一方、外壁のドイツ壁はそれらを直接受けることで黒ずみ背景と化し、売場は一層映えてゆく。売子が立つ六角形から連想したブビンガのカウンターは、それに沿うように敷かれた陶板床と共に、参詣客の足並みを緩やかに受け入れる。万成石の手水鉢からしたたり落ちる井水は、苔床を湿らし空間に潤いを与える。蛇紋の研ぎ出しと洗い出しの中に膨らみをもつ黒漆喰磨きが配された腰壁は、カウンターから長い廊下にかけて続き重厚感と艶やかさをもたらす。用いたこれらの素材は、日々の営みの中で味わいを増すものである。特に焼場に立つ職人の背壁の陶板は、餅を焼く際の油煙を帯び、より趣深い表情になるだろう。
餅を焼く音、小豆の香り、焼きたての餅の温度、それを頬張る人々の列。この場所に刻々と刻まれてきた情景はこの先も変わらず続いていく。本店に続き、遠方から足を運ぶ参詣客の休憩所となる茶屋の計画を控えている。太宰府の歴史と文化に敬意を払い、この地に末永く貢献できる商店であり続ける事を願う。




梅ヶ枝餅 やす武

設計 : TORU SHIMOKAWA architects
構造 : Atelier742 / 高嶋謙一郎
クリエイティブディレクション : 長尾周平
写真 : 藤井浩司


クライアント : 有限会社やす武
所在地 : 福岡県太宰府市宰府2-7-16〈太宰府天満宮参道〉
計画種別 : 内装設計
設計期間 : 2020年10月〜2021年7月
工事期間 : 2021年8月〜2021年12月
オープン : 2021年12月20日


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